※2024年1月27日(土)に開催した京都カラスマ大学授業「腸内細菌に生かされている、わたしたち」ボランティアスタッフによる授業レポートです。
すっかり毎年恒例となった、「日本農芸化学会」とのコラボレーション授業。今年度は、京都大学大学院農学研究科、発酵生理及び醸造学分野准教授の岸野重信先生の研究のお話を伺いました。
ヒト、動物の腸の内部に生息している腸内細菌について、個人的なモヤモヤがスッキリに変わる知の現場に、期待を弾ませつつの参加です。
参加者は20名。カラスマ大学受講生最年少記録更新の生後2ヵ月(!)の生徒さんはじめ、サイエンス好き、発酵好きなど、学びに興味津々な老若男女が集い、多様性豊かな面々です。
まずは、教室の「カフェ・フロッシュ」さんが用意してくださったボーンブロスのスープ(腸にすごくいいらしい!)で温まりつつ、カラスマ大学恒例の自己紹介タイム。「マイブームな腸活」というお題では、マッサージ、甘酒、キムチ、へしこ、日本酒、糠漬け、すぐき、イソブラホン納豆、鉄玉、味噌汁など、さまざまなキーワードが挙がります。先生の登場前ですが、早くも生徒のみなさんの好奇心の化学反応が発生していました。
導入としてはじめに、木村泰久さん(京都大学大学院 農学研究科 応用生命科学専攻 細胞生化学研究室 准教授)から、日本農芸化学会につての紹介です。
農芸化学とは、英語で示すと「Agricultural chemistry」の略。「農産物を加工したもの」という意味だそうです。会の設立は大正13(1924)年、つまり今年で100年目。初代会長は、鈴木梅太郎博士。1910年に、オリザニン(ビタミンB1)を最初に発見された方だそうです。
オリザとは、イネ科の植物という意味。当時、国民病として脚気(かっけ/ビタミンB1欠乏症)があったそうです。日露戦争では、陸軍兵士の4人に1人、約25万人が脚気を発症し、そのうちの10%の人が亡くなった。その理由は、食事の白米。陸軍では脚気は伝染病と考え、主食として白米を食べ続けたのに対し、海軍は麦飯を主食に変更。脚気の罹患が0.1%以下となったそうです。このことから「糠の中に必要なものがあるのではないか」と鈴木梅太郎博士は考えられたとのこと。目の付け所がシャープだな、と思いました。
そしていよいよ、授業の始まり。
岸野先生の研究室では、発酵、醸造学分野の研究をしているそうです。
生徒たちの自己紹介に合わせて「ビール、日本酒も大好きです」という告白も(笑)。そして、「自分の学生時代、乳酸菌、プロバイオティクスが話題となったが、当時の研究者になぜ乳酸菌がいいのか聞いてもはっきりとわかっていなかった。まだ何もわかっていない分野があるんだと思い、研究の道に進んだ。今日の講義では、何かひとつでもみなさんの記憶に残ればいいなと思っています」言ってくださいました。一般市民である私たちにも、わかりやすく教えていただけそうだな、という期待感が膨らみました。
講義のかなから、僕の印象に残った3つのテーマを紹介します。
(1) 乳酸菌による漢方薬活用法について ~糖代謝~
漢方薬の薬効を得るためには、腸内細菌の働きが必要、という点が驚きでした。
漢方薬に含まれる「配糖体(はいとうたい)」の成分は、個人が持つ腸内細菌によって影響を受けるそうです。たとえば、防風通聖散に含まれる、バイカリン。糖の部分の残りの成分が身体に効くが、糖と残りの成分とに切るのが腸内細菌です。その中でラブレ菌が切ってくれることが判明。つまり、漢方の薬効を得るためには、漢方とラブレ菌を一緒に摂るのが有効だそうです。他には、黄耆(おうぎ)の成分について。キシロースとグルコース2つがくっついた構造とのことで、あるビフィズス菌とある乳酸菌の2つがいれば、薬効が得られるとのこと。
(2) 乳酸菌による高尿酸予防について 痛風は辛い ~核酸代謝~
ビール好きな岸野先生は、痛風に悩まされることがあるそうです。
「尿酸値が高くなると、痛風のリスクが高まる」というのは私たちも知っていますが、尿酸とは、美味しい成分、イノシン、グアノシンが吸収されて、血液中で尿素になり、この尿素が悪さをする事象です。ただし、五角形の糖分がとれたプリンベースになれば、吸収されに難くなる。よって、体内に吸収される前に分解してしまえば、課題は解決。そこで活躍するのが、ラクトバチルス菌という微生物だそうです。
通常、食物は7〜8時間、人の体内にあるのですが、この微生物を用いれば30分で分解されるという、体内のドリブラー。治験を通じ、尿酸値が高めの人だけ抽出すると、尿酸値が低下することがわかったそうです。現在ではこういった研究から機能性食品も開発・商品化されていると聞き、京大の先生の研究が、こんな風に私たちの生活と繋がるんだなぁと親近感を覚えます。
(3)乳酸菌による不飽和脂肪酸代謝と代謝産物の生理機能について 脂質代謝 ~脂肪酸が面白い~
「あぶら」という字は2種類あります。油はさらさら(液体)、脂はかたい(固体)。そして、「脂は月へんに旨いと書く通り、美味しいですね(笑)」と、岸野先生。脂肪の種類と体内反応の基礎を教わりました。
脂肪の種類には、植物油に多く含まれている不飽和脂肪酸の「リノール酸(オメガ6脂肪酸)」と亜麻やエゴマなどの野菜に多く含まれている体に良い油「αリノレン酸(オメガ3脂肪酸)」があるが、この2つは人体で生成できないので、体外から摂取する必要がある、ということ。胆汁酸とリパーゼで鎖が切れて体内に吸収され、細胞の成分に使われたり、脂質メディエーターになったりするという。
少し専門的な用語も多かったのですが、プロジェクターに映し出された図解も見ながら、なるほど!と、少しずつ理解が深まります。
続いて、腸内細菌の一つである乳酸菌がリノール酸から作る「HYA」という機能性食品の話に。腸内細菌脂質代謝物「HYA」の効能は「食後の血糖値上昇を抑える」「内臓脂肪を減らす」などだそうです。
最後に、生きて腸まで届く「乳酸菌ショコラ」の事例も挙がり、「最近、お菓子の棚で見るあいつも研究成果のひとつなのか!」と 思わず、心の中で呟いてしました。
ちなみに、こうした腸内細菌がつくるイイものをそのまま体内に取り込むことを「ポストバイオティクス」と呼ぶのだそうです。
最後に、生徒さんたちとのQ&Aで、私が「なるほど!」と唸ったベスト3を紹介します。
Q:腸内細菌は生まれつき人体にいるの?あるいは、どこからかお腹の中に入ってくるの?
A:まだ明確ではありません。ひとつの可能性としては母親の産道。2人目以降は母親の乳腺からという説もあります。半分冗談だが、お風呂。日本人は湯船に浸かるので、家族で同じ腸内細菌を共有しているという説も。お尻から入ることもあります。
Q:体内の腸内細菌は一生もの?
A:赤ちゃん、子ども、大人、お年寄りと変化していきます。食べるもので変化します。例えば抗生物質で腸内を空にしても、また同じ様な状態に戻ります。盲腸に隠れているという説もあります。(盲腸がない場合は?という発言を受けて)元々住んでいる環境の影響が大きい。
Q:そもそも、なぜこんなにたくさん役に立つ菌、役に立たない菌、日和見菌がいるの?
A:菌叢で、人の指紋と同じ位の判断基準ができる。一方で、細かい中身は違うが、機能は殆ど一緒です。偏食の人、自閉症の人は菌に偏りがある。菌が先か病が先かではあるが、体質との関係性もあります。色々なものを食べましょう。
僕自身が印象に残った先生のひとことは、「医者は菌を殺すのが役目。研究者は菌を活かすのが役目」でした。
「アンパンマンは、ばいきんまんがいるから活躍できる。なぜなら、ばいきんまんが悪さをするから。良い菌と悪い菌のバランスが一番大事であり、良い菌だけにすれば良いというわけでもない」ともおっしゃっていました。
自身の腸内環境を整えるために、腸内で日々働く腸内細菌さんに感謝しつつ、彼らをサポートする食事をきちんと摂ろうと心に誓いました。
レポート:白倉幸治
写真:かなっぺ
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