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【授業レポート】《落語家・桂吉坊》編/今さら聞けない、伝統芸能「基本のキ」。

執筆者の写真: 京都カラスマ大学京都カラスマ大学

更新日:2021年4月5日


京都カラスマ大学とは縁も深い、京都の学びの場、有斐斎弘道館。その再興10周年を迎えるにあたって、ここに江戸時代に学問所を開いていた皆川淇園を主人公にした新作劇「新〈淇〉劇」が上演されます。能楽を中心に、さまざまな古典芸能の演者が参加するこの公演の、出演者が講師を務める連続講座が実現しました。演者どうしが聞き手、話し手をつとめる、贅沢な時間の一部をご紹介します。


 
落語は、本家『独り言』


新作劇「新〈淇〉劇」に、能楽師に混じって出演される落語家の桂吉坊さん。能楽と落語がどうつながるの? と不思議に思うかもしれませんが、吉坊さんは、小鼓や日本舞踊のお稽古をされていて、聞き手をつとめたインタビュー本吉坊がきく藝(ちくま文庫、朝日新聞出版)では、大物の古典芸能者からさまざまなエピソードを聞き出しておられ、古典芸能への造詣の深さがしのばれます。


この講座で聞き手を務めた能楽ワキ方の有松遼一さんは、「能楽師の中でも、吉坊さんだったら、インタビューで話してもいい、という人も多いというくらい、古典芸能のハブ的な存在」と、能楽師から見た吉坊さんの存在感を紹介。我々にとって身近な「落語」の、意外に知らなかった基本をお聞きしました。



まずは、落語という言葉の由来。噺(はなし)家というのと、落語家というのとでは、違いがあるのでしょうか?」という有松さんの質問。


桂吉坊:

これはよく言われるんですけど、実際には違いません。意味としては同じ。人によって噺家、落語家と名乗るひとがいる。噺という言葉も色々書き方があって、口に新しい「噺」、口から出る「咄」。どうも「噺」という方が古いらしいです。落語、つまり“落ちを語る”という書き方がされたのは後のことです。


よく耳にする、上方落語と江戸落語。違いがあることはなんとなくわかっているのですが、このふたつは発祥から違うそう。


吉坊:

江戸前期から中期にかけて、噺というものはでてくる。有名なところでは誓願寺の和尚、安楽庵策伝が書いた『醒酔笑』。これには笑い話が多いんですね。まず読み物としての落語というのがあって、それを語る人が出てきたのが、落語家の始まり。江戸の鹿野武左衛門は、呼ばれてお座敷で上演するスタイルで楽しまれた。京都の露の五郎兵衛や、大阪の米沢彦八は“辻咄”、大道芸といいますか、お寺の境内とか野外でやっていたんですね。米沢彦八は谷町九丁目の生玉神社の境内で、当時は芝居の役者の声色をやっていたらしい。露の五郎兵衛は、床几に腰かけていたといいます。今の皆さんのイメージにある、座布団の上で演じるスタイルではなかったんです。江戸では寄席がつくられ、明治時代に江戸で三遊亭 圓朝(さんゆうてい えんちょう)という大名人によって『牡丹灯篭』とか『累ヶ淵』など長編が語られた。それに対して、上方は野外、境内ですから、足を止めてもらわないといけない。お囃子、三味線太鼓を使ってお客さんの注意をそらさないように演じました。そんな歴史があるからか、上方にはいまでもお囃子を使った演目が非常に多いし、ストーリーよりギャグ中心(笑)というような噺も多いですね。


古典芸能の芸の伝授は、師匠からの口伝でおこなわれることがいまだに主流です。吉坊さんは、桂吉朝、桂米朝に弟子入り。能楽師の有松さんも、シテ方の師匠について学ばれました。有松さんは、落語家さんが、師匠とどんな稽古をするのか?質問しました。



吉坊:

「基本的なお稽古は、対面で“三べん稽古”。一つの話を細かく切って、一切れを三回、師匠が言ってくれるんです。僕らはそれを見て聞いて。三回言ったら、それをおうむ返し。ある程度できたら次の場面に行く。ポイントは「丸覚え」です。吉朝に言われたのは、『とりあえず、テープレコーダーになれ』。ところが、教えていながら、師匠の言ってることが途中でかわることがあるんです。たとえば、『借家の数が増えた』と言うセリフがあるとするでしょ。稽古で、一回め『借家が5件増えた』というセリフが、次は「10件増えた」。2回目で、ですよ!(笑)。その次『12軒も増えた』って。ええー?となって、もう、気になって借家の数しか覚えてない。聞かないと仕方ないから『あの、借家の数は?』と聞いたら、『ええねんや、そんなことは』(笑)、、、先に言うてくれよ!」

有松さんは「『さっき、“左”って言ったじゃないですか?』というのは、ぼくらにもあります!」と、師弟関係の中でありがちな「伝統芸能あるある」に笑いますが、能楽界にはあまりない「師匠以外からもネタを習っていい」という落語会のルールに驚きました。



吉坊:

僕らの世界では、師匠以外の先輩諸氏に習うのはオッケーなんです。三べん稽古の間、だいたい3年ちょっとは師匠のもとで丸覚えをやる。それをやると、よそへ行った時に覚えが早いんです。三べん稽古は、実は覚え方を覚える稽古なんです。そうやって、師匠のやってないネタも学ぶわけです。


能も、落語も、師匠から習い伝承される芸。でもそれは、ただ単に先人の芸をコピーするのではなく、まず型をおぼえたあとに自分で学び、未来に、師弟の深い交流を受け継いでいくかのような営み。吉坊さんは落語を演じながら、そう体感されています。


吉坊:

僕の師匠は入門して7年めのときに亡くなってしまって、米朝も亡くなって5年になりますが、今でも、初めてやるネタとか、その当時はやれなかったネタをやっとやろうとした時に、『どうなってんの、これ?』ていう部分があるんですよね。どこに聞いたらいいかわからない。と、その時に、『自分の中にいる師匠なら、どうするかな』、と。『作品を通して、師匠が見える』じゃないんですけど、ある時突然、みえる時がある。それも、何回も何回もやっている時もあれば、いざ舞台の上で『あ、こういうことですか、師匠?』みたいな瞬間がある。それは、作品を通して師匠に会う、もしくは先人に会うということ。僕らは、お客さんに対して落語をやっているんだけど、常に作品を通して、先人に会おうとしている。師匠に会う、あるいは、一緒に走っている。そういうところがあるんじゃないかな。



レポート:沢田眉香子(有斐斎弘道館再興十周年記念実行委員会) 写真:白倉幸司

 
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