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【授業レポート】「京都で、家族を思う夜。堀香織さんと語る、大人の保健室」

※2025年4月22日(火)に開催した京都カラスマ大学授業「『父の恋人、母の喉仏』を読んで。著者・堀香織さんと一献、大人の保健室」参加生徒さんによる授業レポートです。



4月22日(火)に開かれた「京都カラスマ大学 大人の保健室」。今回は『父の恋人、母の喉仏』の著者であり、教室ともなった「日本酒サロン 粋(すい)」の店主でもある堀香織さんの授業。真ん中に大きな木のテーブルがひとつ。ぐるっと周りに座った人たちの顔が見える、こじんまりとしたお店には、静かにジャズが流れる。大人がほっとできる保健室のような場所でした。


堀さんが選りすぐった日本各地のおいしい日本酒を飲みながら、京都への愛や著書に登場する人たちの思い出などをお聞きしました。





「川のある町が好きなんです」


教室となった「日本酒サロン 粋」は令和6年6月6日にオープンし、まもなく開店1周年。三条大橋すぐそばの仁王門通りにあります。




店主の堀さんは文筆家でもあり、映画監督の是枝裕和氏や放送作家の小山薫堂氏らのインタビュー記事やブックライティングを手掛けてきました。金沢市生まれの東京育ち。東京から鎌倉、そして京都へ。古い町が好きなのかとお聞きしたら、


「大きな川がある町が好きなんです。空が広く見えるのがいいんですよね」と。


京都は建物の階数規制があり、高いビルがありません。鴨川からストーンと町の周囲を囲む山まで見渡せる景色が気に入って移り住み、この街を(今のところ)終の棲家にすると決めたそうです。そして堀さんがもうひとつ、愛してやまないのが「お酒と酒場」。大好きな場所に大好きなお酒を飲みながら大人が語り合える場所を。それを実現したのが「粋」です。「ここであと20年はお店を続けたい。品のいいおばあちゃん女将になりたいんです」と堀さんは微笑みます。





2024年12月に発刊された書籍『父の恋人、母の喉仏』はもともと、堀さんがブログに綴っていたエッセイでした。プロのライターが長い文章をSNSに投稿するのは珍しいそうです。商業ライティングと違って自分の趣味で書くブログには、長文が書けないという人もいるとか。でも堀さんはミクシィからフェイスブックへ、そしてnoteへと媒体を変えながら、両親の看取りについて書き続けていました。



そして今回の出版にあたって、お父さまの恋人、お母さまの恋人、自分の恋愛のエピソードが加筆されました。「本当に書くことが好きな人」。この本の編集を担当し、出版へと導いた石黒謙吾氏が「あとがき」に書いているとおり、一度読み始めたら途中で止められなくなる、堀さんの文章の魅力がつまっています



「髪を洗ってくれた女(ひと)」〜ユキ姉ちゃんの思い出


物語は、お父さまの恋人だった「ユキ姉ちゃん」の思い出から始まります。両親の別居後、父と暮らしていた幼い堀さんと妹の世話をし、母親代わりの愛をたっぷり注いでくれたのは父の恋人「ユキ姉ちゃん」でした。母と離れて暮らす堀さんと妹さんにとって「ユキ姉ちゃん」は、幼い二人の、心の隙間を埋める大きな存在であったことが伝わります。


授業中に、堀さんの「ユキ姉ちゃん」への思いを感じた場面がありました。授業に参加していた方が「ユキ姉ちゃん」について「お父さんの “愛人” 」と言ったとき、堀さんはにこやかに、でもきっぱりと「愛人ではなくて  “恋人” です」と訂正したのです。堀さんが「ユキ姉ちゃん」のことを心から慕い、感謝していることがよくわかりました。




堀さんのお父さんは3回結婚して3回離婚しているのですが、「ユキ姉ちゃん」はその中に含まれていません。堀さんが大学生のときに再び、「ユキ姉ちゃん」に会いに行ったことが本に書かれています。堀さんと「ユキ姉ちゃん」との再会のシーンからは、幼いころに「母」のような愛情を注いでくれた「ユキ姉ちゃん」への愛情と感謝があふれていました。



「ファミリー!」〜自分のことも語りたくなる


堀さんは、ご両親の看取りについてSNSに書き始めた頃、あることに気が付いたそうです。


それは、「両親の思い出のシーンを細部まで書けば書くほど、コメントが多くなる」ことでした。その多くは「自分の親を看取った時はこうだった」とか「久しぶりに祖父母に会いに行ってみようと思う」とか、「家族」のことを思い出したというものでした。


本を読んだ方たちが、自分の家族のことを思い出してくれるとうれしいです」と堀さんは話していました。そう堀さんが語るように、この本は「家族」の物語です。3度結婚し、3度離婚した「だちゃかん」(金沢の方言。「ダメ」とか「いけない」などの意味)な父への堀さんのまなざしは、とても優しいものでした。ときにあきれながらも、ユーモアを交えつつ語られるお父様の物語を読んでいるうちに、亡くなった両親のことを思い出した、と授業に参加した方が感想を話していました。



また、祖母を2006年に、母を2020年に、それぞれを看取った堀さん。祖母の看取りの際には「自分の親を看取る練習になっているのかもしれない」と感じたそうです。「動物で親の親の代を見送ることができるのは人間だけかもしれない」という話をしてくれました。「親を見送ることって、大きな喪失感を伴います。もしいきなり自分の親を見送らなければいけなかったとしたら、精神的なダメージはかなり大きいでしょう。でも、ほとんどの人は親を看取る前に、祖父母や親戚などを見送ることで、いつか来る親の看取りへの、心の準備をしているのかもしれないと思いました」。


親の看取り。その喪失感について堀さんは、実母を亡くした元恋人に宛てたメッセージを、本の中で引用しています。「『喪失』は、失うなんて考えられないほど大切なものをかつて持っていた、という幸福な事実を、深い悲しみと静かな諦めでもって再確認することのような気がします。かつてもいまも、それらを『持たない』人間には、到底味わうことのできない甘美な感覚なのではないかと思うのです」(本文より)。本を読んだ人に「失うとは思っていなかった大切なもの」に、「いまあるうちに」会っておこう、と思わせるのかもしれません。





堀さんのお母さまは体の筋肉が徐々に弱っていく病気で亡くなりました。コロナ禍で思うように面会もままならなかった時期に、堀さんは在宅医療を選び、お母さまを見送りました。病院で最後の時を迎えるのか、家族のそばで最後の時を過ごすのか。お母さまを家に連れて帰る決意をしてから亡くなるまでの一週間。短い文章でしたが、自分は親をどのように見送りたいのかについても、考えさせられました。



「私をあたためてくれる家族の思い出たち」


エピローグは40年前に離婚した両親の別々の仏壇と祭壇の描写から始まり、「だちゃかん」だけど大好きだった父親の死で、締めくくられます。


父と母と、そして娘。堀香織さんの著書『父の恋人、母の喉仏』は「家族」の愛の物語でした。そして、堀さんの本を読んで、感想を語り合った「京都カラスマ大学」の授業は、今はもういない家族や、離れて暮らす家族のことを思う夜になりました。


文:森佳乃子








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