【授業レポート】「ガビンさんは、みんなの『はじめての老い』も、聞いてみたい」
- 京都カラスマ大学
- 7月8日
- 読了時間: 8分
更新日:7月10日
※2025年6月21日(土)に開催した京都カラスマ大学授業「ガビンさんは、みんなの『はじめての老い』も、聞いてみたい」サポートスタッフによる授業レポートです。
2025年、夏至。
今回の授業は、四条富小路の「徳正寺(とくしょうじ)」を教室に、編集者で『はじめての老い』著者の伊藤ガビンさんによる、ワークショップ形式の会となりました。
開始前、教室に到着すると、まだ準備前の本堂には藍の緞通にバタフライチェアが整然と並んでいて、なんとも静謐な空気感。「今日は暑いですね」と言いながら、ご住職がさっとえんがわの扉や窓を開け放つと、畳に沿って、すーーっと、気持ちいい風が室内を通ります。

定員の20名いっぱいにもかかわらず、「遅れるかも」と伝えてくださいっていた人も含め、ほとんどの方がちょっと早いぐらいに到着して、それぞれゆっくりと教室の様々な箇所を拝見しておられました。
それもそのはず、この「徳正寺」さん。通常は非公開のお寺なのですが、浅井長政の菩提所にちなんで名付けられたとか、そもそもその前史として「大谷道場」をルーツに持つ歴史ある寺院であるとか、しかも本堂の奥には、ご住職一族とも親しいという建築史家の藤森照信さんが設計を手掛けた茶室「矩庵」と庭園があるのです。(終了後、ガビンさんとスタッフとで、見学させていただきました。これまた素晴らしかった!)
時間になり、今回の授業コーディネーターで学長の高橋マキさんから開始のご挨拶。定番のアイスブレイク、「今日、はじめてカラスマ大学の授業に参加する人〜!」と問いかけると、半数ぐらいの方が挙手してくださいました。おお、すごい。大人になると自然と激減してしまう、「はじめまして」の機会を生み出すことの尊さよ!
続いて徳正寺住職の井上迅(じん)さんよりご挨拶。
伊藤ガビンさんとのご縁は、実は30年以上前に遡ります。なんと20代の学生頃に編集会議(井上さん自体、現在も扉野良人という名で文筆や出版も手がけるのです)に参加していた『思想の科学』という冊子に採用された「ヒューララ感覚」(現代(1990年代)の虚無感を表す感覚)についての特集で、扉ページに使われたCG作品がガビンさん作だったとか。
ここで、さっと出てきた30年前の「思想の科学」の冊子。路上観察学会や今日のテーマでもある「老い」にもつながる赤瀬川原平さんなどのお名前に並んだ、学生時代の井上さんの名前、そのエッセイも、ついつい引き込まれて読みはじめてしまいそうなところですが、、
さ、いよいよ伊藤ガビン先生によるカラスマ大学授業の始まりです!!

まずは、ガビンさんがnoteで綴り、そのシリーズ原稿を中心にまとめ、今年の3月に書籍として出版された「はじめての老い」を書くきっかけなどのお話から。
50代後半からうっすら気がつき出した、なんとも言えない「自分の中の老いのはじまり」の話。
現在、60代前半、もう若くはないが、高齢者でもない、、、何者でもないエアポケットに入ってしまったような状態、、、時々、無性に「若いほうがいい」という価値観を強要されている気持ちになったり。

よく考えたら、今までだって、たとえば「思春期」とかの自分の変化もポジティブに捉えられてなかったかもしれないし、世間の中での「老いのイメージ」の変動(たとえば、「ジーンズにボタンダウンって、今はおじいちゃんしか着ませんよ」と若者は言うらしい)にもなんだか気持ち的についていけない。
そんな、今まで視界に入っていなかった新たな視点に右往左往する自分と向き合いながら、まさに「老いの路上観察」のような執筆だったといいます。

いろいろな変化の節目。立ち止まって自分を見つめ直したくなるタイミング。「還暦って、よくいったもんですよね」と、しみじみするマキさん。
たしかに。大人になって歳を重ねて、日々身体と心に起こる変化。薄々と気づいていながらも、都合よくスルーしてしまっているようなことも多々、、
ここからは、ガビンさんによるワークショップの始まりです。
「この本を書きはじめてから、聞いてもいないのに、周りから僕に「老い」について話してくれる人の多いこと、多いこと。僕自身、あんまり老いに対して事前に詳しくなりたくないのに、、とも思いながら、これはこれで面白い現象かもしれないなと」
みなさんにもある? そんな気持ち。
さっそく頭の中にぼんやり浮かべてみましょう。
生徒のみなさんそれぞれが、自分の「はじめての老い観察」をしながらワークシートに記入していきます。じっくり時間をとり、立ち上がってウロウロしたり伸びをしたりしつつ「老い」について考えます。
先生が用意してくださったワークシートの質問項目は色々ありましたが、例えばこんな感じ。
・あなたが「老い」をはじめて意識した日のこと
・自分のとった行動で「老害かも?」と思った瞬間
・これからしてみたいこと
などなど。
その中で個人的にもすごく気になった項目に、
・いつかしてみたかった。けど、もうしないかも?なこと(願望の断捨離)
というのがありました。これについて、ガビンさんから補足の説明。
「若い時のイメージで、大人になったらやるかもとか、年をとったらやるかもとか、そういうのあったけど、死ぬまでにやりたい100のことじゃなくて、逆に「死ぬまでに、もうやらないこと」が増えていくというのも、もちろんあきらめとかじゃないんですけど、気が楽になりそう。とか、思いました。このタイミングでは自分は死んでるから考える必要はない。みたいなことも、考えなくはない」
次は、記入したワークシートを周囲の参加者と交換し、他者の「老い」を読む時間。
そして相互インタビューからの「語り足りなさ」を知る時間と、ワークショップは進んでいきます。

最後は、語り足りない一人一人の一言を、ことばにしていく時間をとりました。せっかくなので、ここにも私がメモしていた、みなさんの語り足りなさを訥々残しておきます。

「今一番幸せなのは、周りの意見がどうでも良くなったこと。目があんまりはっきり見えなくなったからか、ポスターとか、街の風景とか、勝手な読み取りが前より上手くなった気がして色々見ていて楽しい」
「エネルギーを出すのが面倒になって、行くつもり、やるつもりだったことをやめてしまうことも。でも、ちょっと気が楽なんですよね。そのぐらいが」
「不安定な感覚が蘇る部分とか、まさに思春期のようで、「Re:中二病」って感じなのかも」
「老いを面白がれる視点、あ、これだ!と思えた」
「親の施設に行ったりすると、入居者同士の老老介護を目にする。その時「車椅子を押す側」でいたいという自分に気が付いてハッとした」
「普段介護の仕事をしていても、サポートするその人それぞれが、どういうふうに「老い」を捉えているのかを考えるのはとても大変で大切なこと」
「最近、何か見ると、なんでも泣いちゃう。こんなことなかったのになと思う」
「「こんなの若者には出来ないよ」と、若い時に嫌だったことにも挑戦してしまう自分がいる」
「巨匠と呼ばれてしまうことへの違和感。例えば何か受賞したときなんかも、受賞した自分に自分が追いつかない感覚は未だにあるんだけど」
「何かを失くす、減らしていくという感覚じゃなくて、変化に面白さを見つけていくってこと?」
今回の生徒のみなさんの顔ぶれは、40代前半から70代まで、美大の学長、アートディレクター、コピーライター、カメラマン、介護職、音楽家、Webディレクターなどなど、職種も色とりどり。で、その賜物としかいいようがないんですが、なんだかみなさんの「ひとこと」のまとめ力がすごい。
はっきりとしないとならないことの多いこの世の中で、気がつけば自分にくっついてきたそれぞれの立場や肩書きとか。そんなものを、一旦横に置いて、「老い」について20人のみなさんとともに考えた半日でした。
ちなみに、ガビンさんは、東京のお台場エリアにある日本科学未来館『老いパーク』の展示にも関わっていらっしゃいます。展示詳細のページを拝見しましたが、これは、、行ってみたい!
老いパークの学習教材には「老化現象の疑似体験から学ぼう」という表題がついています。「老化」は身体の経年変化であり、「老い方」は人によってさまざまですが、それでも、誰にでもいつか訪れる「老い」。
そう。「老い」は、すべての人の未来。
なんですよね。
学び、多し。
すでに自分(アラフィフに足を突っ込みました)にも思い当たる話の数々に、でもまだ、ぼんやりとした、つかみようもない残像感を噛み締めつつ、良い時間でした。
この場限りの20人と共有するこの時間こそ、カラスマ大学の授業ならではだなぁと感じました。
また、こんな機会を生み出す側の一員として、様々な授業に参加出来たらなと思います。
(写真/授業レポート Ayumi Yamakura)

京都カラスマ大学から支援のお願い
京都カラスマ大学は、みなさんからの寄付とボランティア精神で運営しています。どうかみなさんで少しずつ、京都カラスマ大学の活動を支援してください。次もいい授業をつくるための寄付の方法は3つです。
◆「つながる募金」 ソフトバンクの携帯代と一緒に支払えます
◆「SUZURI」 カラスマ大学オリジナルグッズを選んでください
◆振り込み:特定非営利活動法人 京都カラスマ大学【京都銀行】下鳥羽支店 普通口座3141273
Comments