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執筆者の写真京都カラスマ大学

【授業レポート】Vol.1/近寄ってみたら、みんなおかしい。「私の知らないぐるりのこと」

更新日:2022年11月8日

 



みなさんは、家族や同僚以外のまちの大人たちに、最近、出会っていますか?


コロナ禍の中のいま、出会いのカタチが変わってきていて、オンラインで「いつでも・どこでも・誰とでも」関われるようになった一方、まちに出て人と集まる場面や、地域に入って人と関わる機会は少なくなっていると思います。どっちがいいかは置いておいて、ふと自分自身が大学生のころを思い出すと、飲みに行った先などで、素敵な大人の方との思いがけない出会いがたくさんありました。


学生のまちでもある京都。


じゃあいったい、いまの大学生たちは、まちの大人にどう出会っているのか。そして、飲み先で出会っていたあの素敵な大人たちはいま、いったいどこに身を潜めているのかーー。

 

そんな小さな問いから、この授業が生まれたと、授業コーディネーターの山倉あゆみさん。カラスマ大学の授業づくりは、初挑戦です。


あゆみさんが敬愛をこめて「おかしな大人」と呼ぶ今回の先生は、「京都・一乗寺ブリュワリー」というブランドのオーナーで、日本で初めて精神科の在宅医療(ACT包括型地域生活支援と言います)に取り組んだ精神科医の高木俊介さんです。




 

経歴からもわかるように、高木さんはまさにまちの素敵な大人の方。

 

そして、教室は一乗寺ブリュワリーのビールが飲める「beerpub ICHI-YA」。





乾杯の挨拶が、今日の授業のチャイム代わりです。美味しいクラフトビールと「今日の黒板料理」の味わいと共に授業が始まりました。

 

まずは高木さんにぐるりのこと(自分の周りのこと)。新型コロナウイルス感染症の蔓延によって「僕たちは、引き裂かれてきた」と言います。



社会的に複数の顔を持つ高木さん。医者として、新型コロナウィルス感染症が蔓延する状況にどう対処するかを真剣に考える一方で、「京都・一乗寺ブリュワリー」オーナーとしても、緊急事態宣言発出などの影響を受けてビールが売れない状況が続き、入金ゼロの数字が並んで青ざめる日々だったそうです。


なんで飲食店だけがこんな憂き目に……と悩んだ時期もあったそうですが、きっと他の人も似たような思いを抱き、心が引き裂かれているんだろうな、とも感じたそうです。例えば大学生なら、対面授業がなくなりオンライン授業に。小・中・高の学生たちなら、行事が中止にと、若い世代に目を向ければ、大人だけが苦しい思いをしているのでもない。


さらに、そういった状況下でたくさんの人たちが、さまざまなことを周りに合わせて我慢するのが「あたりまえ」だと割り切っていることにも、違和感を感じたそうです。


100年に一度といわれる世界的なパンデミック。誰がどうしたらいいかわからない中で、世間が決めたスタンダードに従わなければいけない空気感。これって何だかとっても、息苦しいと。

 

( うん、うん。たしかに。)




 

高木さんは、このような社会の人々を「お互いに狼であるような羊の群れ。」と比喩します。常に周りを気にしながら、ビクビクしている姿と、生活が潰されていく中でおかしいとも言えない現状に、怒りがふつふつと湧いてきたそうです。

 

ビールを飲みながらそんな話を聞いていると、高木さんから「今、僕たちは、やりたいことが本当にできているのかなぁ?」と、ドキッとするお言葉が。

 

コロナ禍のなかで社会の変化にうまく適応していたと思っていた自分が、いつのまにか外圧によって、実は窮屈な生活に変えられていたのでは……?


そう思うと、残念ながらすぐに返答ができませんでした。


 

ただ高木さん曰く、答えは出なくてもこうして疑問を抱くことこそが大切なんだそうです。そして、「なんか違うよなぁ」と思ったときに、ふらっと足を運んで、誰かと話し合える場が大切みたいです。

 

これ、わかりますよね!


エビデンス?そんなもの抜きで、考えにならない考えや、悩みとも言えないような小さな悩みについて、フランクに話し合える環境が心地いい。SNSが普及した今だからこそ、そう思う人も多いはずです。

 

こんなふうに高木さんの言葉から話の種をもらった後、次はテーブルを囲んだ生徒同士で話の感想と、みんなのぐるりのことを話しました。


 

友だちでも同僚でもない間柄で、そのうえ今日が「ハジメマシテ」の方もいるのがカラスマ大学の特徴です。年齢もバラバラ、肩書きもバラバラ。今日たまたま、同じテーブルに偶然居合わせただけ。でも、たぶん少しビールの力も借りて、最終的には時間が足りないほど、会話が盛り上がっていきました。面白いですよね。

 

それは、それぞれの「ぐるりのこと」だから、知らなくて、わからなくて、あたりまえ。みんなで話して、みんなで聞けたのは、そんな関係が理由だったかもしれません。でも普段から、わかんないことをわかんないと言えるような社会になれば、きっと心は今より自分らしく反応してくれるかもしれませんね。

 

ただ、意外なことに、自分のぐるりを話すと、結構な確率で相手のぐるりと重なり合ったりします。きっと今回の授業でも、そんな素敵な偶然を見つけて思わずニヤッとした人はいたと思います。これって、まちの大人との出会いになんだか似ている気がします。



 

こうして、ゆるく楽しい時間は美味しいクラフトビールと共にあっという間に過ぎていきました。

 

高木さんは最後に「周りが幸せであることが、実は自分は幸せなんだ」と話してくれました。


これは高木さんの最近の行動すべてに繋がっていて、クラフトビールのオーナーとして、在宅医療に取り組んだ精神科医として、また他のことに対しても高木俊介として、周りの幸せを目指しています。もちろん、中には時間をかけて生まれる関係性もあって、すぐに効果はでないかもしれません。だけど、時間をかけた緩やかな支援は、現場で小さく繋がり、結果として幸せが大きく広がっていくと話してくれました。

 

近寄ってみたら、みんなおかしい。


高木さんみたいに、知れば知るほどおかしい大人は、このまちにたくさんいます。

今回の授業は第一回目として開催され、これからも月1回のペースでまちの「おかしな大人たち」をどんどんこの「beerpub ICHI-YA」にお招きしていく授業になるそうです。この場が、僕たちとまちの大人たちのあたらしい出会いのきっかけになるんですね。




次回開催は、9月22日(木)。今回の先生であった高木さんが、次はホスト(聞き手)となります。これはまた、楽しみですよね!

 

さぁ、平日の夜、ビール片手に話しましょう。毎回お迎えするゲスト(先生)の最近の「ぐるりのこと」(自分の周りのこと)に耳を傾け、参加者みんなでとつとつ対話してみましょう。ゆるい出会いと美味しいビールがあなたを待ってます!




レポート:酒井なおき

写真:浅井葉月、山倉あゆみ

 

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