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  • 執筆者の写真京都カラスマ大学

【授業レポート】サソリの毒が人の暮らしと未来の農業を救う?!

更新日:2023年3月1日

※2023年1月22日(日)開催「サソリの毒が、人の暮らしと未来の農業を救う!?」(本授業は、日本農芸化学会とのコラボレーション授業です)の授業レポートです。

 

2023年初回の京都カラスマ大学授業は、日本農芸化学会とのコラボレーションで開催するサイエンスカフェ。



本日の教室は、建仁寺の塔頭(たっちゅう)、禅居庵


境内の鎮守さんには、摩利支天を祀っており、その摩利支天がイノシシの上に載って移動することから、あちらこちらにイノシシの像が見られます。準備のために少し早く到着したので、おみくじを引きました。


まずはアイスブレイク。受講生同士、隣合った人たちと自己挨拶。続いて、「サソリについて知っていること」をシェアしました。






「中華料理屋でサソリを素揚げにして食べた経験がある」「美川憲一のさそり座の女」など、多様な意見が上がります。




今回の参加者は20名。10代の小学生から60代まで、豊かな探究心がうかがえる顔ぶれです。特に、最前列の小学生・まさみちくんは、このお寺のご子息で、お寺の茶の木に集うオオスズメバチの研究をしているとあって、先生との掛け合いが楽しみです。




緊張感がほぐれてきたところで、京都大学でのサソリの毒の研究をされている、宮下正弘先生が登場です。昨夏、NHKの「サイエンスZERO」にも出演されましたのをご覧になった方もいらっしゃるでしょうか。



先生からはまず、「農芸化学」の定義が示されました。農芸とは、農=自然のモノに、芸=技術を加え、世の中の役に立つものを作り出そう(=化学)とする学問だそうです。


その後、今回の授業が4つの構成が示されます。


―毒って何?

―サソリは怖くない

―サソリの毒はどんなもの?

―サソリの毒は何の役に立つ?




毒って何?


先生:みなさん、毒を持つ生物として何を思い浮かべますか?


生徒:「オオスズメバチ!」「クラゲ」「ムカデ」「キノコ」「フグ」「あっ、ヨメさん!(笑)」


先生からすかさず、それは我々の研究範囲ではないですと突っ込みが入ります。日本ではハブやマムシといったヘビ毒の歴史が長いそう。そして最近では、「セアカゴケグモ」「ヒアリ」といった外来生物が出現しているのだとか。


先生:(ボードを示しつつ)毒をもつ生き物を並べました。どこかで1本、線を引いて分けるとすると、どこでしょう?





生徒:「植物と動物?」「昆虫とそれ以外?」


答えは、「食べられて毒になるもの」と「食べるために毒を注入するもの。つまり、針、牙、尻尾などを持っているもの」。「日本語では同じ「毒」ですが、英語では、食べられて毒になるものはpoison、注入する毒はvenomと使い分けていますね


生物はそれぞれ独特の毒素を持っていて、Daという単位で分子量(毒の大きさ)を表します。例えば、フグは319 Da、ミツバチは3000 Da、セアカゴケグモ 150,000 Da x 4、の毒をもつだそうです。



「クモは基本的には全部毒グモです。但し、小さすぎて人間には害がない」という説明には、ちょっと驚き。



毒を注入する仕組みにも違いがあり、ハチは内臓ごとちぎれるのに対し、何回も使うサソリの針、後ろ足から毒を出すカモノハシなど、様々存在することが分かりました。






サソリは怖くない


サソリが毒を使う目的はなんだと思いますか?


それは、虫(コオロギ)を食べるため。ハサミを使って食べるのですが、その際、相手の動きを止めるために毒を注入するそうです。サソリの生息地域は南極大陸を除いた大陸に生息しており、森林や海岸に住む ”甘ちゃん” のサソリと比較し、過酷な砂漠に住むサソリの方が持つ毒性が強いそうです。


先生:昆虫は100万種類、クモは5万種類います。では、サソリの種類はどれくらい?


「100万」「1億」という声が上がりますが、宮下先生の答えは、「2,500種類」。思ったより少ない。さらに、その中で人間に害を及ぼすサソリはグッと減って、なんと30種類程度。採取に向かう研究者にとっては、集中攻撃を浴びる可能性のあるハチの方がずっと怖いそうです。




サソリは、ヨーロッパ、北米、南米、中米、アジアでは東南アジアを中心に生息しています。日本には八重山諸島が名前の由来となっているヤエヤマサソリ、世界中に広く生息するマダラサソリの2種類がいます。


サソリの身体の構造はクモと同じで、脚は4対、ハサミは顎が発達したようなもので、鋏角は口の中にあるもう一つのハサミだそうです(鋏角類の特徴)。クモは口(鋏角)の横から毒を出すのに対し、サソリは尻尾から毒を出す違いがあるそうです。


さて、ここで実際に「コオロギをハントするサソリ」の映像を見ます。


毒針を刺し易くするために針は曲がっています。自分よりも大きなのゴキブリにも毒が効くというのは驚き。サソリ毒の成分の大半はまだその役割が分かっていないこと、作用の特異性が高く(=特定の相手にのみ有効)、一般的な殺虫剤と比較すると、例えば鍵穴がひとつの殺虫剤に対し、サソリの毒は鍵穴が3つあるようなイメージで、より一層厳密な点が特徴出そうです。





サソリの毒は何の役に立つ?


薬、あるいは農薬としてのサソリの毒の可能性が示されました。


「毒は薬にもなるんです」と先生。




薬の問題は副作用。特定の部分に効いて欲しい「選択性」という性質は、毒と薬とで一緒です。例えばボツリヌス菌。最強の毒素と言われており、致死量がごくごく少量。この菌を利用した薬、ボトックスはすでにひろく知られているのではないでしょうか。

元は顔面麻痺を和らげる薬であったのですが、今最近は皮膚の皺を目立たなくさせるための美容目的の利用で有名です。毒が薬になる、非常に珍しい成功例の一つだそうです。


他にも、アメリカドクトカゲの毒から見つかったバイエッタは、糖尿病薬として使用されています。また、イモ貝、和名でヤキイモ(見た目はどう見ても里芋!)の毒は鎮痛剤として利用されています。そして、今回のテーマ、サソリの毒は、癌細胞の診断薬として応用研究が進んでいるそうです。


もうひとつは、農薬としての可能性。



同じ農薬を使い続けると害虫側が耐性を持ってしまうため、複数の農薬を使い分けられていること、ヨーロッパでは化学農薬の規制が残留性や益虫への影響から強化されてきており、今後の農業においては、生物農薬に頼らざるを得ない局面がやってくることを学びました。そのような状況の中、ヤエヤマサソリは非常にユニークな殺虫毒を持っていて、この毒の形が珍しいだけでなく効き方も違うので、今後、農薬として活かせる可能性があるそうです。



盛り上がりすぎて時間オーバー気味ですが、最後に少し、質疑応答です。




Q:先生の研究の目標はなんですか?


A:あまり実用に目標を置き過ぎると、実用に足らない部分を補う仕事になってしまう。そうなると基礎研究ではなくなるんです。新しいものを見つけるには、興味や好奇心がもとになるべき。もっと言えば、「サソリって格好いいやん」くらいの動機で始めないと研究が面白くなくなるし、進まない。新しいことが見つかると感動します。金儲けだけを目的にすると面白い研究は続かないですよね。



Q:薬や農薬として活用する場合、サソリの毒はどうやって集めるんですか?


A:化学合成や微生物を使って生産することになります。



Q:コオロギに効いたサソリの毒は、他の昆虫には効かないのでしょうか?


A:害虫の代表である蛾には効きにくい。そもそも、コオロギのどこに作用しているかも判明していないんです。今、蛾に効く殺虫成分がないか、探索中です。



Q:農薬を扱う企業は、農薬規制をどう考えているのでしょう?


A:電気自動車を推進するのとよく似た状況でしょうね。まだまだ確立された技術はないが、技術革新を起して課題解決をしたいと考えているという段階だと思います。





授業中、誰よりもたくさん質問をしていた小学生のまさみちくんが、最後に勢いよく手を上げて、「将来先生と同じ大学に行く。新しいことを発見します!」と宣言してくれました。



先生からは「クモの調査をして欲しいな」とリクエストがありましたが、「いえ、僕の好きなハチの研究です!」とブレない真っ直ぐさ。ちょっと先の未来が楽しみです。



サソリも毒もわたしたちの日常生活には接点がない分野ですが、「毒は薬にもなる」という言葉が示す通り、薬、農業という形に見方を変えると、サソリの毒とわたしたちの暮らしの関係が、少し近づいた気がしました。



普段の暮らしの中で世の中のニュースを見ても、不思議に思ったことはそのまま流さず、能動的に問いを立てられる姿勢を保つこと。そして、年齢に囚われずに、自分の好奇心と挑戦心を大事にすること。個人的には、この2つを今年のプチ目標として心に決めた、気持ちのいい初授業でした。



レポート:白倉幸治

写真:山倉あゆみ


 

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