※2023年3月29日(水)開催「暮らし観光の目線で歩く京都のまち」の授業レポートです
神奈川県真鶴町から川口瞬さん(真鶴出版代表。雑誌『日常』編集長)、 長野県松本市から菊地徹さん(栞日代表。企画・編集・執筆)をお招きして、 一緒に京都の下京区のまちを歩いてみました。 訪れる人も暮らす人も「暮らし観光」の目線で歩いてみれば、 日常の京都の中に今まで見えていなかった色々なものが見えてきました。
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予想以上に早く咲き始めた桜が満開で、天気にも恵まれた3月29日の午後。平日にもかかわらず、属性も年代も違う、様々な目的を持った生徒のみなさんが集まってくれました。
チェックインで軽く自己紹介。顔ぶれは、まちづくりや観光業に携わる方、市の職員さん、京都が好きすぎて移住してきた方、西宮や滋賀など近郊から来ている方など。「暮らしながらできる観光」「ゆとりのある観光」など、それぞれが自分自身で定義した「暮らし観光」のイメージをもって、この街歩きに参加したようです。
今回は、神奈川県真鶴市から来てくださった川口瞬さん(真鶴出版代表。雑誌「日常」編集長)と長野県松本市から来てくださった菊地徹さん(栞日代表。企画・ 編集・執筆)と、下京区のまち歩きを共にしました。 それぞれの地域で、ローカルと観光と、はたらくことと暮らすこと、そして、日常について考えているおふたりです。案内するのは、京都カラスマ大学学長の高橋マキさん。
スタート地点は新町正面。西本願寺の門前町であり、東本願寺とのちょうど真ん中にも位置する京都カラスマ大学の事務所前です。
この日から西本願寺で「親鸞聖人御誕生850年」という大法要が行われているらしく、門前町のあちこちで、カラフルな旗がちらほら目に入ります。それでも、この辺りには、3月に入って急にぶり返した京都駅、東山や河原町の賑わいとは違って、日常の京都時間が流れています。
「大本山ですから、昔はこのあたりにお宿やお土産物屋さんが立ち並んでいて、大きな法要があると全国から門徒さんが押し寄せたんだと思います。観光のルーツともいえるかも知れませんね。すごく賑わったんじゃないでしょうか」
みんなで、ちょっとその光景を想像してみます。
ちなみに、このレポートは、前回の授業の中で先生のお話に登場した「下駄戦記」という物語を撮った、世良八玖茂が担当させていただいております!
「下駄戦記」を撮る際に、地域のおばちゃんと出会うまで 、1 人でやみくもに下京区のまち歩きをしていました。その時は、下京区のこともまちのことも、全く知らない状態で歩いていたので、ただ傍観者としてまちというものを観察している状態でした。
しかし、今回のまち歩きでは、ここに暮らしている人の目を通して、下京区という地域を見ることができま した。これにより、自分が 1 人の時ではまったく気が付くことができない、京都の人の精神性などについても知ることができたような気がします。
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今回の街歩きでは、多方面の学びがありました。
他所さん(よそさん)が一緒に歩いているからこそ生まれる、「京都のまちなかはどうして碁盤の目になっているの?」という素朴な疑問から始まった、まちのなりたちや歴史に関する学び。
このあたりの質問は、京都に住んでいる人ならなんとなく答えられるので、生徒さんの中からアンサーが飛び出したり、「せーの!」で、「まる・たけ・えびす・に・おし・おいけ〜♪」と、有名な京の通り歌を歌う場面などもありました。子供が迷子にならないための童歌だといわれているそう。
ちなみに、今回歩いているのは「雪駄チャラチャラ魚の棚〜♪」という、通り歌を軽く口ずさめるつもりでいた僕にとっても、謎のエリアです。
「なんで、天使突抜町なんやろ?」など、おもしろくて、不思議な地名の由来について考えることも。
途中、小学校の跡地に新たなホテルが建てられている建設現場に遭遇し、時代によって変化してきたまち、そして京都の人のまちの変化に対するあり方について知り、考えることも。
「ここは、植柳小学校という、地元の人にとても愛された学校でした。まちの人たちがお金を出し合って作った「番組小学校」です」
学長の話の中には、初めて聞く言葉もたくさん出てきます。番組小学校??
「明治になって天皇さんが東京へ行ってしまわはった後に、どないすんねん、京都のまちの地盤、これからの未来をちゃんと支えていくためには教育が必要や、ということで、地元の人たちがお金を出し合って小学校を作ったんですよね。学校運営のためにまちの人から集められた資金を「竈(かまど)金」と言ったそうです」
生徒さんが詳しく教えてくださいました。その成り立ちはもちろんのこと、「天皇さん」という京都の人特有の言い方にも、菊地さんがとても驚かれていました。
そして、この街の人の暮らし方や地蔵盆などの慣習のことも、見るだけではなく、話を聞き、深く知ることができました。 「職住一体」といって、普通の住居に見える町家の中でも、職人さんが代々ものづくりをされていること、そういった暮らしがどんどん失われていっていることも、知ることができました。
ひっそりと看板代わりに書かれた「錺」という文字、読めますか?
「せっかく桜が満開なので、清水寺の桜も見ておきしましょうか」
堀川五条の歩道橋の上から、東の方へ目をやると、、、!!!
このまちに暮らす人の口から出る言葉や視点は、ただぼんやり歩くだけでは見えない、街の隅々を照らしてくれました。さらには、ばらばらに集まった参加者間でのまちに関する興味や目のつけどころ、知識の共有が、さらにこのまち歩きを深く、面白いものへと変化させてくれまし た。
普通に歩くと 15 分で通過できるところをじっくり 2時間かけて歩き、ゴール地点の路地裏の書店 「ho-ka books」にたどり着きました。
「ho-ka books」の秘密基地のような2階のスペースで、感想のシェアの時間をとりました。
川口さんは「真鶴でも宿のゲストと一緒にまち歩きをしていますが、京都のまち歩きは歴史の奥行きがすごい」と言われていました。歩くなかで、自分の暮らすまちと共通する点を探し、共通点を見つけては喜ばれていました。
菊地さんは、ブックカフェとゲストハウスを営む傍ら、3年前にまちの銭湯を継業(第3者承継)されました。京都の地下水が出汁(京料理)や豆腐、染め物、銭湯といった、観光客にもなじみのある京都の生活文化、産業と強い関りがあることに興味を持たれていました。
「これまで京都に何度も来ているけど、今日は歩くスピードだからこそ知れたことがたくさんあった。京都の地下水が街のさまざまな産業と関りがあり、まちの生活や文化を支えていることも知れた」と言われていました。
生徒のみなさんの感想の中には、「普段見落としているところに目を向けることができた」や「アンチスタンプラリー的な街歩きも大切だと思った」や 「今まで京都と関わりがあったが、京都のことをいつもより深く考える良い機会となった」など、「暮らし観光」の目線を通してまちを見たからこそ出た感想が多くありました。
「暮らし観光」。
まだ多くの人が耳にしたことがない言葉だと思います。有名な観光スポットを巡るスタイルの大衆観光ではなく、暮らしの中や暮らしの延長線上にある観光。そんな観光の中には、まだ知られていない魅力がたくさん詰まっています。「暮らし観光」が広まっていくと、また世の中も変わるのかもしれませんね。
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夜は、場所を移して恵文社一乗寺店。
「雑誌「日常」とこれからの観光」と題して、午後の京都のまち歩きをふりかえりつつ、松本、真鶴での「暮らし観光」事例もお伺いしました。
レポート:世良八玖茂
写真/動画:程冠宇
授業コーディネーター:高橋マキ
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