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  • 執筆者の写真京都カラスマ大学

【授業レポート】知られざる在日コリアンの歴史~ウトロ平和祈念館見学~

更新日:2023年8月2日

 

4月に開館1周年を迎えたばかりの「ウトロ平和祈念館」が、今回のカラスマ大学の教室です。





授業コーディネーターは飯島健さん。健さんは、京都を拠点に世界で活躍するパフォーマー、ちゃんへんさんと出会ったことをきっかけに、この「ウトロ」という街のことを知ったのだそうです。





ウトロ平和祈念館は宇治市内に位置し、2023年4月30日に開館しました。これまでの1年余りの間に全国各地から約1万4000人もの方が来場されているということで、まずその関心の高さに驚きました。




授業では、副館長の金秀煥(きむすふぁん)さんに館内を案内していただきました。金さんは幼少期から朝鮮学校で学び、大学校卒業後は民族団体に所属し、2010年からウトロ地区にある南山城同胞センターに勤務。ウトロ地区では住民の生活支援とウトロを訪れる人びとの案内などを務められています。







まず、秀煥さんと一緒に屋上に上がり、祈念館周辺の街を広く見渡しながら、ウトロ地区になぜ在日朝鮮人が集まったのかという歴史と地理的関係の説明から始まりました。


ウトロ地区は戦時中に計画されていた京都飛行場建設のために集められた在日朝鮮人労働者によって形成された集住地域です。







国策として強行的に進められた建設計画の影響で、戦後もそこに住む在日朝鮮人は、生活基盤となるインフラも整備されていない環境で生活をしていました。祈念館前の広場に、ポンプがポツンとひとつ残されているのはそのため。当時、地下水を汲み上げるために使用されていたものだということが明かされます。





次に、2階へ移動してパネル展示を見学しました(2階の展示は撮影禁止)。


比較的多くの在日朝鮮人たちは「強制徴用」という制度の中で日本に来たのではなく、ここに移り住むしか選択がなかったという状況でした。これは個人の問題ではなく、人々に選択肢を与えなかった社会の構造の問題です。社会の構造を問うということは今の日本社会の中にもある諸問題にも繋がっていると秀煥さんは語ってくださいました。





確かに、現代社会には露わになっていない問題も含め、様々な構造的不均衡や人権侵害が蔓延していると思います。


私自身、ウトロ地区の歴史と実相という比較的限定的な学びを得ようと参加していたはずなのに、気づけば日本国内だけでなく国際的な人権問題と同じように、そうした構造的問題を生み出してしまった社会の問題であることに気付かされました。そこから個人の問題ではないという共通点を見つけ、他の社会課題へ視野を広げながらお話を聞くことができました。


戦後は、植民地政策によって奪われた民族文化を取り戻すための民族教育がこの地でも始まります。


しかし、当時の在日朝鮮人にも日本国民として日本の教育を受けるべきだとする日本政府とGHQの方針によって朝鮮学校は強制的に閉鎖されます。


では、在日朝鮮人に日本国民としての権利があったのかと言われるとそうではありませんでした。


外国人登録令により「みなし外国人」と、その取扱いが規定されます。「日本国民」に入れず、「あなたたちは仕方ない」を強制している社会が宇治、日本にはあったのでした。


「でも、この社会の不均衡なシステムに翻弄され、不当な差別を受けながらも生きてきた人たちは決して《かわいそうな人》ではありません。大変な状況だったからこそ人と手を取り合い、支え合いながら生きてきたからこそ、心の暖かな人たちでした」と、秀煥さんはいいます。





その後起こるウトロ地区の立ち退き問題に対して、ウトロの人々は抗議の声を上げます。差別と劣悪な生活環境にあったウトロ地区を、なぜ必死に守ろうとしたのか、それはウトロ地区こそ在日朝鮮人の人たちが自分の出自を隠すことなく、自分らしく生きていけることができる唯一の場で、自分のアイデンティティを表現できる場であったからです。





在日朝鮮人であるという理由だけで不当な差別を受けてきた人たちの気持ちを、私たちは簡単に理解することはできないと思います。


それでも「もし自分の故郷(ホーム)が不当に奪われそうになったら、、、」と想像してみると、当時声を上たちの恐怖と怒りと対抗心を感じ取ることができたような気がします。完全には共感できないとしても、共感できそうな事柄を見つけ、寄り添うことが過去を生きてきた人々について知る第一歩ではないでしょうか。





館内見学を終えた後は、質疑応答の時間でした。


「なぜ館内は撮影禁止なのか」「なぜヘイトが生まれてしまうのか」「なぜ文化コンテンツと切り離して考えてしまうのか」など、参加者から積極的な質問や意見が飛び交い、有意義な交流の時間となりました。


ウトロ平和祈念館は、差別を受けたかわいそうな在日朝鮮人の姿を伝えるだけの場所ではなく、様々な課題を最後まであきらめずに乗り越えていった人々の生き様を伝えています。


そして、困難を乗り越えるために必要な「小さな統一」を形成してくれる場所です。日本社会にある小さな分断を克服してくれるのも人とのつながりです。





一人でも多くの方がここを訪れ、歴史を学び、落ち込んで反省するのではなく、どうしたら分断を克服できるのか、「小さな統一」を作れるのか、考えてもらえたらと思います。訪れたことがない人はもちろん、以前訪れたことがある人も再度ぜひ、ウトロ平和祈念館へ足を運んでみてください。





レポート:芽美

写真:てんしん


 

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